大判例

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最高裁判所第二小法廷 昭和52年(あ)167号 判決

主文

原判決を破棄する。

第一審判決中「未決勾留日数中四〇日を右刑に算入する。」

との部分を破棄する。

第一審における未決勾留日数中三七日を本刑に算入する。

その余の部分に対する検察官の控訴を棄却する。

理由

一被告人は、本件犯罪事実の一部について昭和五〇年五月三一日大阪地方裁判所に求令状起訴され、同日その事実について発せられた勾留状の執行を受け、勾留のまま昭和五一年七月八日同裁判所において、本件犯罪事実について、懲役一年八月、未決勾留日数四〇日の本刑算入の判決を言い渡された。他方、被告人は、本件とは別に、窃盗被告事件(以下「別件」という。)について昭和四六年一二月六日勾留状の執行を受け、同月一五日大阪簡易裁判所に起訴され、同月二一日保釈されたが、昭和五〇年三月二三日右保釈を取り消されて収監され(原判決が収監日を三月二二日と判示しているのは記録上明らかな誤りである。)、その後勾留のまま同年七月七日同裁判所において、懲役一年四月、未決勾留日数八〇日の本刑算入の判決を言い渡され、その自然確定に伴つて同月二二日刑の執行を受け、昭和五一年八月一八日これを受け終つた。

二右の事実関係によると、本件における第一審の未決勾留は、その最初の日である昭和五〇年五月三一日から同年七月六日までの三七日間については別件の第一審判決前の未決勾留と重複し、同月七日から二一日までの一五日間については別件の控訴の提起期間中の未決勾留と重複し、また、同月二二日以降の分は別件の刑の執行と重複していることになるので、もし別件の刑の執行と重複する本件の未決勾留期間のほか、別件の控訴の提起期間(刑訴法四九五条一項参照)と重複する本件の未決勾留期間についても本件において裁定算入することが許されないものとすれば、本件における裁定算入の可能な未決勾留日数は三七日になる(なお、別件の第一審判決において未決勾留日数八〇日が裁定算入されているが、その判決前の未決勾留のうち本件の未決勾留と重複していないものが八五日あるので、この八〇日の裁算定入と本件の右三七日の裁定算入とが重複算入となることはない。)。検察官は、右の解釈を前提とし、裁定算入の違法を主張して控訴したが、原判決は、これを容れず、最高裁判所昭和四〇年(あ)第二三〇号同年七月九日第二小法廷判決(刑集一九巻五号五〇八頁)を引用したうえ、「別件の懲役一年四月の刑に算入されたのは、合計一三八日間の未決勾留日数のうち裁定算入八〇日、法廷算入一五日の計九五日であり、これを差引くと別件未決勾留日数は四三日間残存することになるから、別件と本件の未決勾留が重複する五二日のうち四三日までは本件の本刑に算入しうるものと言わなければならない。」と判示した(但し、前記のとおり、保釈取消による収監日に誤りがあるので、右判示中に一三八日間、四三日間、四三日とあるのは、それぞれ一三七日間、四二日間、四二日ということになる。)。検察官の上告趣意は、右第二小法廷の判例は法定通算の期間と重複する未決勾留の裁定算入を違法とする趣旨であるとして、判例違反を主張するのである。

三未決勾留日数の本刑算入の制度は、法定通算、裁定算入の別なく、算入された日数について刑の執行があつたものとする制度であり、未決勾留期間中の暦に従つた特定の日を起算日として刑の執行があつたこととするものではない。その意味において、本刑に算入された未決勾留の日数は、法定通算、裁定算入の別なく、刑の執行があつたとされる刑量を示すにすぎないものとしてこれを扱うべきである。

しかしながら、このことは、どの期間の未決勾留について法定通算又は裁定算入がなされたかを考慮外としてよいことを意味するものではない。本刑に算入された未決勾留日数は、刑量を示すものではあるが、その算定が特定の未決勾留期間の日数に基づいてなされたものである以上、これと重複する未決勾留がある場合において重複算入の有無、範囲などを確定するためには、当然、いかなる期間の未決勾留について算入がなされたかを検討することが必要である。

思うに、刑訴法四九五条は、未決勾留が所定の訴訟目的に用いられたことを要件としてその期間中の未決勾留日数を特に本刑に法定通算することとしているのであるから、当該訴訟の経過中暦のうえで具体的に定まる期間についてその日数が通算されることになる趣旨と解するのが相当であり、全体を通じる未決勾留期間について右の日数が通算されるものとみるべきでない。そのように解さず、他事件の本刑に法定通算された未決勾留の期間と暦のうえで重複する未決勾留を、さらに本件の本刑に裁定算入又は法定通算することは、同一日の未決勾留について重複して算入することに帰着し、同条及び刑法二一条の趣旨に反するものというべきである。これと異なる原判決の判断は、違法というほかはない。

所論が引用する前記第二小法廷の判例は、「一般に、未決勾留が、他事件に対する裁判確定によりその本刑たる自由刑に算入されてすでにその執行に替えられた他の未決勾留と重複している場合に、かような未決勾留をさらに本刑たる自由刑に算入することは、刑の執行自体と重複している場合と同様、被告人に不当な利益を与えるもので、刑法二一条、刑訴法四九五条本来の趣旨に違反し許されない」としたうえ、括弧書で、「もつとも、右算入に充てられる未決勾留の日数は、年、月、日のいずれをもつて示されるを問わず、刑の執行があつたとされる刑量を示すにすぎないものとして扱われるべきであるから、当該未決勾留日数につき、未決勾留期間中の暦に従つた特定の日を起算日として刑の執行があつたものとし、右重複の有無、範囲を論ずることの失当であることは当然である。」と判示しているが、それは、単に、右重複の有無、範囲を論ずるにあたつては、算入された当該未決勾留日数つき、未決勾留期間中の暦に従つてさかのぼつて算出した「特定の日を起算日として」その算入された期間刑の執行があつたものとみなす趣旨ではないとするにとどまり、そのことから本件の争点に対する結論が直ちに導き出されるものとはいえないので、右判例は本件に適切ではないものとみるのが相当である。

四それ故、刑訴法四一一条一号により原判決及び主文第二項記載の第一審判決の部分を破棄することとし、同法四一三条但書、刑法二一条により主文第三項記載のとおり未決勾留日数を本刑に算入し、刑訴法四一四条、三九六条によりその余の部分に対する検察官の控訴を棄却し、訴訟費用について同法一八一条一項但書を適用し、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(大塚喜一郎 岡原昌男 吉田豊 本林譲 栗本一夫)

検察官の上告趣意〈省略〉

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